(Restriction and modification system type I, type I R-M system)
大腸菌に代表されるバクテリアの制限修飾系。ファージからの感染を防ぐためのシステム。EcoKIやEcoBIなど。菌のゲノム上の特定の配列をメチラーゼで修飾(メチル化)し、メチル化されていない外来遺伝子を制限(切断)することによって外来遺伝子からゲノムを守る。
hsd(host specificity defective)。近接するhsdR, hsdM, hsdSから成り、それぞれ制限(切断)・修飾(メチル化)・認識を担うサブユニットである。
遺伝子工学で用いられる制限酵素のほとんどは、制限修飾系(TypeII)の制限酵素である。一般的に、基質は二重鎖DNAで、反応生成物は末端が平滑なもの(平滑末端)と、突出したもの(粘着末端、突出末端)が得られる。対となるメチラーゼによってこの反応が抑制される。(eg. EcoRIとM.EcoRI) 認識部位はパリンドローム(回文)配列となっていることが多い。
制限酵素:Restriction enzyme, Endonuclease, REase
Quiz
遺伝子工学のクローニングで用いられる大腸菌の遺伝子型は、hsdR欠損(r-m+)か、hsdR,hsdM欠損(r-m-)である。まれなケースだが、r-m-遺伝子型の株から野生型の株に導入する場合は注意を要する。
表記 | 機能 |
---|---|
dam | dam(DNA adenine methylase)欠損。damメチラーゼは塩基配列GATCのアデニンをメチル化する。 |
dcm | dcm(DNA cytosine methylase)欠損。dcmメチラーゼは塩基配列CCWGG(WはAかT)の2番目のシトシンをメチル化する。 |
mcrA | mCpG (5'-mCG)配列の制限欠損。(mcr = methyl cytosine restriction)哺乳動物細胞由来のゲノムを扱う場合、CGメチラーゼによってメチル化されている場合がほとんどなので、mcrA欠損株が必要となる。 |
mcrBC | RmC(5'-RmC)配列の制限欠損。(RはAかG) |
mrr | メチル化配列制限欠損。(mrr = methylation requiring restriction)Mrrは認識するコンセンサス配列はなく、メチル化されたアデニンあるいはシトシンをもつDNAを切断する。ただし、dam・dcm・EcoKIによるメチル化サイトは切断しない。 |
hsd | 制限性遺伝子型欠損。あるいは宿主特異性遺伝子型欠損(hsd = host specificity defective)。制限修飾系(TypeI) |
e14 | K-12株に存在するが、他の株には存在しない。e14にmcrA遺伝子が含まれている。 |
制限修飾系の遺伝子は下のように連続しており、省略されて表記されることがある。
mcrC-mcrB-hsdS-hsdM-hsdR-mrr
たとえば、HB101の制限修飾系の場合、 Δ(mcrC-mrr) → mcrCからmrrまですべて欠損
制限酵素やメチラーゼの名前は、起源となる生物の属・種から頭字語(acronym)をつけ、さらに株の区別などの情報をもとにして名付けられている。同じ組織の中の別の制限・修飾系がある場合にはローマ数字で区別する。制限酵素とメチラーゼを区別する場合は名前の前にRやMをつけるが、TypeIの場合は省略されることが多い。
acronym | other designation | ||
---|---|---|---|
1文字目 | 2, 3文字目 | 4文字目以降(必要な場合) | |
属(genus) | 種(species) | 株の指定 | 同起源の場合の区別 (I, II, III,,) |
属・種・株 | 酵素名 |
---|---|
Escherichia coli | EcoRI, EcoRV |
Haemophilus influenzae Rd | HindIII |
Haemophilus influenzae Rf | HinfI |
生物種はラテン語表記なので、イタリック体(斜体)表記するのが正式な表記法だが、イタリックにしないことも多い。
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